医療訴訟における賠償額の相場はどれくらいなのでしょうか。
医師賠償保険に加入を検討する際に参考になると思い、調べてみました。
はじめに
医師として患者に誠実に向き合っていても、治療がうまくいかず、訴訟に発展することがあります。
医療訴訟の数は年間約800件あり、ざっくりいうと1年間に医師400人あたり1人の確率で訴えられてしまいます。
その中で、患者側の請求が一部でも認められた割合は、約20%です。
その賠償額の相場はどれくらいなのでしょうか。また、損害賠償請求は病院に対するものなのでしょうか。それとも医師個人に対するものなのでしょうか。
過去の裁判事例を調べてみました。
なお、訴訟率については下の記事を参照してください。
医療訴訟の判例
医療安全推進者ネットワークの医療判決紹介に、医事関係訴訟の判例・裁判例が紹介されています。
このデータを上からざっと100件以上確認してまとめてみました。
判例の選択バイアスは生じていますが、だいたいの雰囲気がわかるかと思います。
訴訟内容について
- 手術・内視鏡的処置・分娩・カテーテル治療に対する訴訟が半数以上。
- それ以外は、内科や救急科での病気の見逃し、治療の遅れなどに対する訴訟が多い。
- 最終的に死亡・後遺症が残存した場合に訴えられることがほとんど。
- 医師の常識はずれの医療行為から生じる訴訟は少なく、常識の範囲内での医療行為でも賠償金の請求を受けていることが多い。
- 医師なら誰でも起こりうるような小さな判断間違いから生じる訴訟が多い。
賠償請求先について
- 患者側の賠償請求先は、「病院のみ」が半数、「病院+勤務医師個人」が1/4程度、「個人の病院やクリニックの理事長」が1/4程度。(つまり、勤務医が訴訟で賠償を請求されるのは1/4くらいの確率)
- 損害賠償先は、損害賠償額と相関しない。(賠償額が高額だから賠償先が「病院+勤務医個人」になるといったことはない)
- 「医師個人の責任の重大さ」次第で勤務医に対して賠償請求されている傾向がある。
賠償額について
- 損害賠償請求額(患者が請求する金額)は大きくても、裁判所の認容額(実際に払わないといけない金額)は減ることが多い。(半額程度になることが多い)
- 損害賠償請求額が1億円を超えるものは4-6件に1件、2億円を超えるものは20件に1件くらい。
- 認容額で5000万円を超えるものは4-6件に1件、1億円を超えるものは20件に1件くらい、2億円を超えるものは見当たらず。
賠償額が高額となった訴訟について
- 認容額が1億円を超えるのは、年齢が若い患者に後遺症が残った場合がほとんど。(逸失利益と将来の介護費用が高額になるため)
- 請求額や認容額が高額な科は外科系(産婦人科、外科、脳神経外科、小児外科)と循環器内科。
- 特に産婦人科に高額な請求が多い印象。
- 認容額が1億円を超えた訴訟の請求先は「病院のみ」の方が「病院+勤務医」より多い。
最も高額な認容額
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判例No.293「未破裂脳動脈瘤の予防手術として脳動脈瘤塞栓術を実施中に、動脈瘤壁穿孔により術中出血を生じ、出血性脳梗塞により患者に後遺障害が残留。医師に手技上の過失があったとして、原審を維持し病院側の控訴を棄却した高裁判決」
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認容額の最高額は 1億7014万5819円(内訳: 逸失利益3720万0405円+後遺障害慰謝料2400万円+将来介護費用9394万5414円+弁護士費用1500万円)。
- 請求先は「病院」。
まとめ
認容額(実際に払わないといけない金額)は、ほとんどが5000万円以下で、4-6件に1件が5000万円〜1億円、20件に1件が1億円〜2億円です。
そして、認容額の平均は5000万円以下となります。